ピアノや音楽の習い事で頭は良くなる?質の高い研究ほど効果が小さかった理由

「ピアノを習うと頭が良くなる」「音楽をやっている子は成績がいい」。習い事を選ぶとき、こうした話を聞いて迷う親は多いものです。子ども6,984人分・54本の研究をまとめたメタ分析では、比べ方が厳密な研究ほど、知能や学力への効果はほぼゼロでした。音楽は「頭のため」より「音楽そのもの」のために選ぶ方が、研究の結果と合っています。
3行でわかる
- 3〜16歳を対象にした54研究のメタ分析(2020年)では、別の新しい活動をする子と比べた研究に限ると、知能・学力への効果はほぼゼロでした。
- 効果が出やすかったのは、くじ引きで組分けせず、何もしない子と比べた研究でした。比べ方の甘さで効果が大きく見えていた可能性があります。
- 3〜6歳の集団での音楽活動では、気持ちや行動を抑える力などに改善が見られたという研究もありますが、偏りのリスクが高く、まだ確かではありません。
01結論から言うと
音楽の習い事で知能や学力が上がるという期待は、研究の大きなまとめでは支持されていません。厳密な研究ほど効果はほぼゼロでした。
「楽器の練習は脳を鍛えるから、勉強もできるようになる」という考えは広く知られています。けれども、練習で身についた力が、まったく別の分野(国語や算数など)にまで広がることは、研究ではなかなか確認されていません。
一方で、音を聞き分ける力のように、音楽と近い力には小さな効果が見られた研究もあります。つまり「何にでも効く」わけではなく、「近い力には少し効くかもしれない」というのが、今の研究の姿です。
02研究とデータでわかっていること
比べる相手を「別の新しい活動をした子」にした研究23本では、知能・学力への効果はほぼゼロでした。効果は年齢や練習時間でも変わりませんでした。
Sala・Gobet(2020) [1]
楽器の演奏などの音楽トレーニングが、子どもの知能や学力(読み書き・算数)を高めるかを調べた実験研究54本を、まとめて分析しました。全体の効果は弱いものでした。比べる相手を「ダンスなど別の新しい活動をした子」にした研究23本に限ると、効果はほぼゼロでした。小さな効果が見られたのは、くじ引きで組分けをせず、何もしない子と比べた研究でした。効果は、子どもの年齢、練習時間、測った力の種類によって変わりませんでした。
対象: 3〜16歳で正式な音楽教育を受けたことのない子ども計6,984人(1986〜2019年の研究) / 限界: 練習時間の中央値は30時間で、何年も続けた場合を調べた実験はほとんど含まれません。
Gordon・Fehd・McCandliss(2015) [2]
音楽トレーニングが読み書きの力を伸ばすかを調べた13研究をまとめました。言葉の音を聞き分けたり操作したりする力(音韻意識)には、小さな効果(0.2)が見られました。韻を聞き分ける力は、練習時間が長いほど効果が強まる傾向でした。一方、文章をすらすら読む力には、全体としてはっきりした効果は見られませんでした。
対象: 13研究・計901人 / 限界: 効果は、もともとの個人差の大きさと比べると小さいものでした。
Lu・Shi・Musib(2024) [3]
3〜6歳の子どもの集団での音楽活動(歌う・演奏する・音の高さやリズムの練習など)を調べた研究を整理しました。10研究のメタ分析では、気持ちや行動を抑える力(0.38)、一時的に覚えておく力(0.35)、考えを切り替える力(0.23)に、小〜中程度の改善が見られました。抑える力の改善がはっきりしたのは、活動期間12週間以上、週3回以上、1回20〜30分のそれぞれの条件で分けて見たときでした。
対象: 米国・ドイツ・中国・英国・カナダの12研究・計807人。楽器や声楽の専門的なレッスンは対象外 / 限界: 研究の性質上、子どもに組分けを隠せないため、すべての研究がこの点で偏りのリスクが高いと評価されています。
Wesseldijk・Gordon・Mosing・Ullén(2023) [4]
男性の双子1,336人で、18歳までの音楽の練習量と、18歳の徴兵検査で測った言葉の力との関係を調べました。音楽の素質や練習量は、言葉の力と関連がありました。けれども、双子のうち練習量の多い方と少ない方を比べると、練習が言葉の力を高めたという結果は得られませんでした。研究者は、関連は練習の効果というより、遺伝などの共通の素地を反映していると考えています。
対象: 男性の双子1,336人 / 限界: 男性のみで、言葉の力1種類を調べた研究です。
「音楽をやっている子は成績がいい」という印象は、こうした関連から生まれている可能性があります。関連があっても、音楽が成績を上げた原因だとは限りません。
03まだわかっていないこと
何年も続けた場合の効果や、日本の個人レッスンのような習い方の効果は、実験ではほとんど調べられていません。研究者の間でも解釈は分かれています。
- 実験研究の多くは数十時間ほどの練習を調べたもので、ピアノを何年も習い続けた場合の効果を、くじ引きで組分けして確かめた研究はほとんどありません。
- 研究の多くは欧米や中国の学校・園での集団プログラムで、日本の音楽教室や個人レッスンにそのまま当てはまるかはわかっていません。
- Luらの論文は、別の再分析では遠い分野への効果が見られたとする先行研究も紹介しており、研究者の間で結論はそろっていません。
- 今回の研究は知能や学力を測ったもので、音楽を楽しむ気持ち、自己表現、友だちとのつながりなどへの影響は扱っていません。
04家庭で今日からできること
音楽は「頭のため」ではなく「音楽そのもの」を目的に選び、子どもの気持ちを基準に続けるかどうかを決めるのが、研究の結果と合った考え方です。
習う目的を「音楽を楽しむこと」に置く
「頭が良くなるから」と期待しすぎると、成績が変わらないときに親子ともに苦しくなります。「弾けるようになったら楽しいね」と、音楽そのものを目的にします。
目安 習い事を選ぶとき
幼児期は、家で一緒に歌う・リズム遊びをする
研究で使われたのは、歌やリズムなど集団での音楽活動でした。手拍子でまねっこ遊びをするなど、お金をかけずに楽しめる形から始められます。家庭で同じ効果が出るかは調べられていません。
目安 3〜6歳・遊びの延長で
「辞めたい」と言ったら、頭への影響を理由に引き止めない
辞めると頭に悪いという根拠は見つかっていません。理由を聞き、頻度を減らす・別の音楽に変えるなども含めて一緒に考えます。
目安 小学生〜
伸ばしたい力は、その力そのもので練習する
読む力や計算力を伸ばしたいなら、読み聞かせや計算など、その力に近い練習の方が近道です。音楽は「別の楽しみ」として組み合わせます。
目安 すべての年齢
習い事の続け方については習い事をすぐ辞める子についての記事も、AI時代に伸ばしたい力については非認知能力の記事や創造力の記事も参考になります。
05よくある質問
ピアノを習うと頭が良くなりますか?
54本の研究をまとめたメタ分析では、比べ方が厳密な研究ほど、知能や学力への効果はほぼゼロでした。頭を良くする目的で始めるより、音楽そのものを楽しむ目的で選ぶ方が、研究の結果と合っています。
音楽をやっている子は成績がいいと聞きます。本当ですか?
音楽経験と言葉の力などに関連があるという調査はあります。ただし男性の双子1,336人の研究では、練習量の多い方と少ない方を比べても、練習が言葉の力を高めたという結果は得られませんでした。研究者は、関連は練習の効果というより、遺伝などの共通の素地を反映していると考えています。
幼児の音楽教室やリトミックに意味はありますか?
3〜6歳の集団での音楽活動では、気持ちや行動を抑える力などに小〜中程度の改善が見られたというメタ分析があります。ただし対象の研究はすべて偏りのリスクが高いと評価されており、まだ確かな結論ではありません。
何歳から始めると効果が大きいですか?
54研究のメタ分析では、知能や学力への効果は、子どもの年齢や練習時間によって変わりませんでした。頭への効果を理由に開始年齢を急ぐ根拠は、今回の調査では見つかりませんでした。
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出典
- Sala, G., & Gobet, F. (2020). Cognitive and academic benefits of music training with children: A multilevel meta-analysis. Memory & Cognition, 48(8), 1429-1441. https://doi.org/10.3758/s13421-020-01060-2
- Gordon, R. L., Fehd, H. M., & McCandliss, B. D. (2015). Does Music Training Enhance Literacy Skills? A Meta-Analysis. Frontiers in Psychology, 6, 1777. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2015.01777
- Lu, Y., Shi, L., & Musib, A. F. (2024). Effects of music training on executive functions in preschool children aged 3-6 years: systematic review and meta-analysis. Frontiers in Psychology, 15, 1522962. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2024.1522962
- Wesseldijk, L. W., Gordon, R. L., Mosing, M. A., & Ullén, F. (2023). Music and verbal ability - a twin study of genetic and environmental associations. Psychology of Aesthetics, Creativity, and the Arts, 17(6), 675-681. https://doi.org/10.1037/aca0000401


