AI時代に伸ばしたい子どもの力は何?研究でわかった「非認知能力」の中身

AI時代に子どもに伸ばしてほしい力は何か。「やり抜く力」「創造力」「非認知能力」など、いろいろな言葉を目にします。研究で一番はっきりした証拠があるのは、感情や行動を自分で抑える「自己制御」でした。一方、人気の教育プログラムには、思ったより効果が小さいものもあります。
3行でわかる
- 子ども時代の自己制御の高さは、32歳時点の健康・お金・犯罪歴と関連していました(ニュージーランドの追跡調査)。
- 「やり抜く力(グリット)」や「成長マインドセット」を鍛える教育プログラムの効果は、大規模な分析では思われているより小さいとわかっています。
- 自己制御を家庭でどう鍛えれば良いかを直接試した研究はまだなく、確実な方法は決まっていません。
01結論から言うと
研究で最も確かな根拠があるのは「自己制御」です。やり抜く力や成長マインドセットを鍛える教材の効果は、思われているより小さいとされています。
「AI時代に必要な力」として、創造力・コミュニケーション力・非認知能力など、いろいろな言葉が聞かれます。
その中で、子どものその後の人生との関連を長期間にわたって追った研究があるのは、感情や行動を自分で抑える「自己制御」です。
一方、「グリット(やり抜く力)」や「成長マインドセット」を学校で鍛えるプログラムは、大規模な分析では効果がごくわずかという結果が出ています。
02研究とデータでわかっていること
子ども時代の自己制御の高さは、32歳時点の健康・お金・犯罪歴の良さと関連していました。グリットや成長マインドセットの効果は、大規模な分析では小さいものでした。
Moffitt・Caspiら(2011)[1]
子ども時代の自己制御が高いほど、32歳時点の健康・お金・犯罪歴の結果が良くなる、きれいな「傾きの関係」が見られました。
対象: ニュージーランドで生まれた1,037人を3〜32歳まで追跡(96%が追跡継続) / 限界: 観察研究であり、自己制御を鍛える介入の効果を試したものではありません。
Sisk・Burgoyneら(2018)[2]
「能力は努力で伸びる」という成長マインドセットと学力の関連は、36万人超を対象にした分析でも、全体としてはごくわずかでした。
対象: 273件の研究・36万5,915人(相関を調べた分析)、43件の介入研究・5万7,155人(効果を試した分析) / 限界: 経済的に厳しい家庭や成績に不安のある子どもには、一定の効果が見られました。
Credéら(2017)[3]
「やり抜く力(グリット)」は成績や物事を続ける力とある程度関連していましたが、その多くは真面目さ(誠実性)という別の性格特性と重なっていました。
対象: 88個の独立したサンプル・6万6,807人(584個の効果量を分析) / 限界: グリットが誠実性と区別できる独自の力かどうかは、確認されませんでした。
03まだわかっていないこと
自己制御を家庭でどう鍛えれば伸びるかを直接試した研究は、まだ十分にありません。市販の教材で非認知能力が伸びるという強い証拠もありません。
- 自己制御の高さと将来の結果の関連を見た研究はありますが、「どうすれば自己制御が伸びるか」を直接試した介入研究は、今回調べた中には含まれていません。
- 成長マインドセットやグリットを鍛える市販の教材・プログラムが、実際に子どもの成績や将来を大きく変えるという強い証拠は、今のところありません。
- 自己制御の研究の中心は1970年代生まれのニュージーランドのコホートで、AIが身近な今の子どもにそのまま当てはまるかは分かっていません。
04家庭で今日からできること
待つ練習や振り返りの声かけなど、小さな積み重ねが基本です。効果が小さいとわかった教材やプログラムにお金をかける必要はありません。
「待つ」小さな練習を日常に入れる
おやつの前に少し待つ、順番を守るなど、我慢する経験を小さなことから積み重ねます。
目安 3歳〜
できたときは「どうやったか」を声にかける
結果だけでなく、工夫した過程や方法を一緒に振り返ります。
目安 すべての年齢
かんしゃくやトラブルの後に「次はどうする?」を一緒に考える
落ち着いてから、自分の感情や行動を振り返る練習になります。
目安 3歳〜・5分
「グリットを鍛える」教材やプログラムにお金をかけすぎない
研究では効果はごくわずかとされています。教材選びの決め手にしないほうが安心です。
目安 すべての年齢
05よくある質問
AI時代に子どもに一番伸ばしてほしい力は何ですか?
研究で最も確かな証拠があるのは、感情や行動を自分で抑える「自己制御」です。子ども時代の自己制御の高さは、32歳時点の健康・お金・犯罪歴と関連していました。ただしこれは観察研究で、特定の方法で鍛えれば伸びるという証拠ではありません。
「グリット(やり抜く力)」を鍛える教材は効果がありますか?
6万人超を対象にしたメタ分析では、グリットは成績とある程度関連していましたが、その多くは真面目さ(誠実性)という別の性格特性と重なっていました。グリットだけを鍛える教材に強い根拠はありません。
「成長マインドセット」の授業はやる意味がないのですか?
全体では効果はごくわずかでしたが、経済的に厳しい家庭や成績に不安のある子どもには一定の効果が見られました。全員に同じように効くわけではない、という結果です。
出典
- Moffitt, T. E., Arseneault, L., Belsky, D., Dickson, N., Hancox, R. J., Harrington, H., Houts, R., Poulton, R., Roberts, B. W., Ross, S., Sears, M. R., Thomson, W. M., & Caspi, A. (2011). A gradient of childhood self-control predicts health, wealth, and public safety. Proceedings of the National Academy of Sciences, 108(7), 2693-2698. https://doi.org/10.1073/pnas.1010076108
- Sisk, V. F., Burgoyne, A. P., Sun, J., Butler, J. L., & Macnamara, B. N. (2018). To What Extent and Under Which Circumstances Are Growth Mind-Sets Important to Academic Achievement? Two Meta-Analyses. Psychological Science, 29(4), 549-571. https://doi.org/10.1177/0956797617739704
- Credé, M., Tynan, M. C., & Harms, P. D. (2017). Much Ado About Grit: A Meta-Analytic Synthesis of the Grit Literature. Journal of Personality and Social Psychology, 113(3), 492-511. https://doi.org/10.1037/pspp0000102